プロジェクト紹介
「人・地域・モノ・シゴト・ライフスタイル・イベント」分野でもご紹介しています。 カテゴリー別、地域別検索が可能です。
HOP TO THE FUTURE ~ホップを通じて人・街・未来を知る~
「あ、先日はどうも。」
「こんばんは!初めまして。」
午後6時を回ると、本日のゲストが次々と到着し、静かだった会場がだんだんと賑わいだし
ました。ウェルカムドリンクとしてクラフトビールがグラスに注がれると、至る所で会話が盛り上がり笑顔があふれます。
7月2日、4回目の“ホップとクラフトビールとコミュニティのお話し”は再び中津に会場を移し、⻄田ビル3階の「Co-creating Space」で開催されました。
【ホップの株主さんたち、ここに集結】
今回のトークセッションは、ホップ栽培を通じたコミュニティ醸成をすでにはじめている方々が複数登壇するフィッシュボール(金魚鉢)形式で進められました。
ファシリテーターは、このイベントには欠かせない存在のウメキタホッププロジェクト代表山田摩利子さん。ホップやクラフトビールで地域につながるコミュニティをデザインしてきたパワフルな女性です。
<ウメキタホッププロジェクトとは?>
2016年から始まったホップの栽培から、ビール醸造・消費までを一貫して行う6次産業型プロジェクト。都会のど真ん中「ウメキタ」から様々な角度でコミュニティを作られています。1年間で75株から10キロのホップが収穫され、3回ビールをつくったそうです!
現在のウメキタ産ホップ株は各地域に嫁ぎ、大事に育てられています。
続いて自己紹介を頂いたのは、藤田秋香さんと平櫛武さん。
藤田さんは、2012年から堺市を中心に、障がいのある人が力を発揮できる場づくりを続けています。
山田さんの呼びかけに真っ先に応えた最初の参画者で、うめきたホップの株主第一号。「ホップつくったらビール飲めるよ!」と周りを巻き込み、ホップの輪を広げていったそうです。各家庭や施設で育ててもらっているので、観察や細かな指導ができないところ が難しい、と言いつつも藤田さんは笑顔でした。
平櫛さんは、姫路にあるキタイ設計株式会社の社員さんです。上司から「やりたいことやったらええよ。」と話を受け、なんていい会社なんや!と思ったとか。そこで、なにかSDGsに合う社会貢献がしたいと考えていたところ、山田さんからのススメもあり、ホップを買うことになったそうです。1株1000円。けっこう高いなぁ…と会場も笑いが起きました。2019年、はりまグリーンラボを設立し、ホップ栽培開始。「はりまの市⺠で育てたビール」で乾杯することを目指して活動を展開しています。
【美味しいビールが飲めるから】
山田さんが話を聞いていくと、たくさん苦労されてきた事が伺えました。
「最初の呼びかけに答えてくれたのはたったの5人。2年続けて、姫路でもやろうという話になりました。
最初はみんなやる気だったけれど、なぜ、姫路で、わざわざホップを育てるのか、乾杯するのか、意義が分からなくて離れてしまった人もいたんです」
始終にこにこしていた平櫛さんが、この一瞬だけ遠くを見つめて表情に影を落としました。
「全体のうち半分くらいからとれた毬花(まりはな・きゅうか:ホップの花)を、北区中崎町でブリューパブを店舗運営されている松尾さんのところに持っていき、一緒に醸造してもらいました。出来上がったビールを持って帰って、みんなで乾杯。それがうまかった!自分たちの手で頑張ってつくったものが本当に美味し
かったから、モチベーションも上がったと思います。」
やっぱりやってよかったと、心から楽しんでいる様子が伝わってきました。
【ビール vs ワイン!?いいえ、ホップ with ブドウです】
ここで、さらに祐田尚紀さん(柏原市)と、川口敬之さん(大阪最南端の岬町)が参加。
祐田さんは、屋上でブドウを栽培する大阪スカイハイ・ヴィンヤードの代表で、なんと、柏原センチュリー⻭科の院⻑でもある兼業農家さんです。今年からはブドウの木と一緒にホップの試験栽培も始めました。2015年に、地球温暖化対策の一助として始まったワイナリーで、キャッチコピーは「ワインを飲んで、環境対策」だそうです。
単にワインを飲んで酔っぱらうのもいいけれど、さらにそれが環境改善につながるという切り口は、なかなか面白いですね。
「柏原市はまわりにブドウ畑がいっぱいあります。プロジェクト参加者の目的は意外にも、環境対策というより交流イベントでした。今までビル同士の横のつながりがなかったから、ホップ栽培…ああホップじゃないです、ブドウです!(笑)。」と、ホップまみれな会場の空気にあてられた祐田さん。
「屋上でブドウを育てることを通じて、会社のオーナーさん同士の交流ができ始めました。
環境対策からスタートしたブドウ栽培は、同じ地域にある会社と会社をつなぐという、想定していなかった良い効果をもたらしたんですよね。交流したい気持ちをブドウが伝えてくれて、企業間のコミュニティを生んだともいえるのではないでしょうか。」
クールに見える瞳の奥から、大きな野望が見え隠れしていました。
川口さんは、昨年7月から岬町で地域おこし協力隊「岬町まちづくりエディター」として活動する陽気な方です。地域おこし協力隊は、起業のサポートや六次産業の課題解決、また移住したい方への情報提供を行ったりしています。
「仕事の範囲はともかく、岬町が楽しいまちであるように、事務所をDIYしてシェアキッ チンを作ったり、イベントを企画したりしています。ホップを育てるきっかけは、5年前に和歌山の仲間と『ビール研究会』を立ち上げたこと。
ただ単にお酒を飲むのではなく、原材料や作り方を知ればより深く楽しめるんじゃないか、と思って始めました。」
その後の交流会でさらにお話を伺うと、とにかく全力で楽しもうという熱量に圧倒されて しまいました。
本気の大人は一様に、子供の目をしているようです。
始まり方はそれぞれ。それでも、今日、ここに集まったみなさん。
広島県からお越しの蔵田亮さんと愛知県からお越しの高田敦子さんがマイクをとり、感想をお話いただきました。
蔵田さん「私の住んでいる場所は日本酒のまち。でもやっぱり乾杯はビールなので、美味しいビールを作れたらもっと面白くなるんじゃないかな。」
高田さん「私も農家の方に助けてもらいながらホップを育てています。一人でやっていると変態扱いですが、今日はこんなにたくさんの変態さん(笑)が集まっていて、本当に幸せな気持ちで講演を聞かせてもらいました。いま農業はとても注目されているけれど、農作業そのものだけではなく、コミュニティづくりにもなるとわかってよかったです。」
交流会ではゲストの活動内容の写真を掲示して、それぞれの思いや取組みに触れる時間となりました。
ホップがつなぐ、人の縁。みんなを巻き込んで、未来を自らの手で創り上げようという気概あふれる人たちが、また決意を新たにしました。
松尾さんのビールは、途切れることなくみんなの喉と心を潤し続けました。この場を美味しいビールとお料理で支えて頂き、本当にありがとうございます!
シリーズ第4回目の今回もまた、多くの人が繋がりをより確かなものにし、新しい出会いというイノベーションを生みました。仲間を見つけて喜び、全国各地のホップ大好き人間たちが笑い合う。この空気を作り出すステージを作り出したのは他でもない、発起人たちの熱い想いです。
みんなが集まった今日という時間は、あなたのまちに何をもたらすのでしょうか。その答えが出るのは明日か、あるいはもっともっと先のことかもしれません。それでも、ビールが大好きな大人たちはきっと、ホップを育て続けます。
芽が出てふくらんで、毬花からゆっくりとビールが醸造されていくように。
心豊かな人間の営みを、まちのみんなで楽しみたいと願い、一歩ずつ行動する人がいる。届け、未来へ。Hop to the Future!!
文/島田 美渚(東邦レオ)